没後1周年 森村誠一記念 写真俳句コンテスト
没後1周年 森村誠一記念写真俳句コンテストにたくさんの方からご応募いただきありがとうございました。全国からの301作品のご応募をいただきました。本当にありがとうございました。たくさんのご応募の中から、最優秀賞1作品、優秀賞3作品、佳作5作品、入選20作品を発表いたします。

重力の一糸弱るや秋日和

所 健一さん
【選評】
写真と俳句が織りなす繊細な秋の瞬間を、深い洞察と緻密な観察眼で見事に表現しています。蜘蛛の糸に掛かった紅葉の一枚が、重力との微妙な均衡を保つ様子を詩的に昇華させた秀作です。
「重力の」という物理的な力から始まり、「一糸弱るや」という繊細な表現を経て、「秋日和」という温かな結びへと展開しています。「一糸弱る」という表現が、蜘蛛の糸の微細な強度と、そこに支えられた秋の重みを巧みに表現し、同時に季節の移ろいをも示唆しています。
背景のぼかしと紅葉の葉の鮮明な描写のコントラストが、この奇跡的な瞬間をより印象的に捉え、目には見えにくい蜘蛛の糸という自然の造形と、そこに支えられた秋の情景を、視覚と言葉の両面から表現することに成功しています。自然の精緻な営みと季節の移ろいが交差する瞬間を、深い詩情をもって表現した極めて完成度の高い作品です。

待ちぼうけ氷の声に暇つぶし

吉田さをりさん
【選評】
日常の一瞬を、ユーモアと繊細な観察眼で見事に捉えた作品です。水道の蛇口から垂れる水滴が氷になる瞬間を捉えた写真と「待ちぼうけ」という人間的な感情を重ね合わせた表現が秀逸です。
水滴が氷になる瞬間を擬人化し、そこに現代的な感覚を重ねることで、新鮮な詩的世界を創出することに成功しています。
写真のクローズアップが、蛇口の無機質な金属感と形成される氷の繊細さを対比的に捉え、「氷の声」という表現が、目に見えない変化の過程を聴覚的に表現する斬新な試みとなっています。冬の静けさとユーモアが交錯する新鮮な感動をもたらす優れた作品として評価できます。

干し柿や明日の定めも知らぬまま

細江隆一さん
【選評】
干し柿の静かな佇まいを通して、人生の不確実性や時の流れを象徴的に捉えた味わい深い作品です。
干し柿の乾燥という緩やかな変化のプロセス、空に浮かぶ雲の移ろい、そして「明日」という未知への思索が見事に重なり合っています。人生の不確かさとそれでも続く日常の営みを深く描き出しています。
写真の宙吊りにされた干し柿たちが「定めを知らぬ」状態を視覚的に表現し、背景の街並みと空が不確かさの中の確かさを象徴しています。視覚と言葉の芸術が見事に調和した、深い思索と共感をもたらす作品です。

この夏を 切手にしよう あなた行き

和氣貫太さん
【選評】
「この夏を切手にしよう」という表現で、窓枠を通して見える夏の風景を切手に見立てる発想が、極めて独創的で印象的で、写真のフレーミングと見事に呼応しています。
「あなた行き」という結びは、手紙の宛先のように個人的な思いを込めながら、普遍的な感動を喚起しています。
窓枠の暗部が作る額縁のような効果と、その中に広がる夏の風景が、一枚の切手のような趣を持って表現されています。視覚的要素と言葉の力が見事に調和し、個人的な思いと普遍的な感動を融合させた作品です。
佳作





総評
写真俳句を提唱した故森村誠一先生の先見性は、本コンテストの作品群によって改めて証明されたと言えます。日常の一瞬から人生の深い洞察まで、多様な視点と表現が寄せられ、「巨星堕つ」の宇宙的スケール、「空色の靴」の斬新な比喩、「重力の」の繊細な自然観察、「この夏を」の独創的な発想など、それぞれが写真俳句の新たな可能性を追求しています。
特に注目すべきは、写真のフレーミングや構図が俳句の意味を増幅させ、逆に俳句が写真に新たな解釈を与えるという相乗効果です。視覚と言葉が互いを高め合い、より深い詩的世界を創出することに成功しています。
従来の表現手法の枠を超えて、現代的な感性と伝統的な美意識を融合させた作品の数々は、写真俳句という表現形式が持つ無限の可能性を示唆しています。今後のさらなる展開が期待される、意義深いコンテストとなりました。
写真俳句連絡協議会会長 中村廣幸
